「人事データが経営の中枢へ」SmartHR芹澤が語る、HRテックの次のフロンティア
クラウド人事労務から始まり、タレントマネジメント、労務コンプライアンス管理へと拡張を続けるSmartHR。CEOが描く10年後のビジョンと、組織変革の真の意味を聞いた。
人事データが経営判断の中枢に入る日が来ると芹澤さんは確信を持って言った。その確信の根拠を一つひとつ解きほぐす1時間だった。
SmartHRが最初に解いた課題は、紙とハンコの人事手続きのデジタル化だった。入社手続きのオンライン完結、年末調整の電子申告。一見地味に見えるこれらの機能が、導入企業の人事部門の工数を劇的に減らした。
しかし、芹澤CEOが今描くビジョンはもっと大きい。手続きの効率化は手段であって目的ではない。本当の目的は、人事データを経営の意思決定に使えるようにすること。従業員のスキルマップ、評価データ、異動履歴。これらをリアルタイムで経営層が把握できれば、人的資本経営が空論ではなくなる。
2024年に施行された人的資本情報の開示義務化は、SmartHRにとって追い風だ。上場企業は従業員の育成・エンゲージメント・多様性に関するデータを投資家に開示しなければならない。SmartHRはその「データの源泉」として機能できる唯一のプラットフォームを目指している。
「人事部が経営の中心に来る時代が、もうすぐそこに来ている。」
SmartHRが現在注力している領域を教えてください。
大きく三つあります。一つ目は基盤となる労務管理のさらなる深化。二つ目はタレントマネジメント領域への本格展開。三つ目は人的資本経営を支えるデータ分析機能の強化です。
特に今、力を入れているのはタレントマネジメントです。誰がどんなスキルを持っているか、誰が次のリーダー候補か。これを人の感覚ではなくデータで判断できるようにしたいです。
競合他社との差別化ポイントはどこにありますか?
データの完全性です。SmartHRは労務管理から始まったので、入社から退職までの全従業員データが一元管理されています。後から人事評価ツールとして入ってきた競合とは、データの深さと信頼性が違う。
もう一つは日本の法規制への対応速度。日本の労働法は毎年改正があります。それに追随するチームを社内に持っていることが、外資系競合にはない強みです。
エンタープライズ向けの展開で、特に難しい課題は何ですか?
IT部門の壁です。大企業では、業務部門が導入したくても、IT部門がセキュリティ審査と既存システムとのAPI連携を要求してくる。この両方に応える必要があります。
ただ、これは参入障壁でもある。エンタープライズの基幹システムに組み込まれたSaaSは、そう簡単に切り替えられない。一度信頼を得れば、長期的なパートナーシップが生まれます。
採用について、SmartHRが求める人材像を教えてください。
社会課題として人事を捉えられる人です。SmartHRの仕事は、突き詰めると日本の労働市場を良くすることだと思っています。給与水準の可視化、育休取得の公平化、スキルの流動性向上。これらを本気で信じて取り組める人と働きたい。
5年後のSmartHRはどんな会社になっていると思いますか?
人事データのインフラになっていると思います。給与計算ソフトがインフラであるように、日本企業の人事データ管理はSmartHRで当たり前になっている世界を目指しています。
そのためには今の3倍以上のプロダクトの厚みが必要です。だからこそ、プロダクトマネージャーとエンジニアの採用に今年は特に力を入れています。
HRテックは地味な産業ではないと芹澤さんは言った。1億人の働き方のデータを持つプラットフォームが生み出す価値は、まだほとんど掘り起こされていない。